昔は子どもの感染症と言われていた麻疹(はしか)。子どもに対する麻疹ワクチンの定期接種が徹底されたことで、今や麻疹は子どもの病気ではなくなりました。その一方、大人では20~30代を中心に小規模な集団感染が毎年発生しています。今回は、なぜ大人の麻疹患者が増えているのか、予防接種を受けたほうがいいのはどんな人かをわかりやすく解説します。
麻疹(はしか)ってどんな病気?
麻疹(ましん、別名:はしか)は、麻疹ウイルスによって引き起こされる感染症です。感染力がとても強く、致死率が高いことから、麻疹撲滅を目指した取り組みが世界中で行われています。
感染経路
麻疹は感染力が非常に強く、1人の感染者から12~18人に感染すると言われています。これは、インフルエンザの6倍の感染力です。感染経路は飛沫感染や接触感染に加えて、空気感染もあります。
症状
免疫を持たない人が麻疹ウイルスに感染すると、「前駆期」「発疹期」「回復期」の経過をたどって症状が現れます。
[timeline][tl title=’前駆期’] ウイルス感染から10~12日の潜伏期間の後、38℃前後の発熱、上気道炎症状(咳、鼻水、咽頭痛など)、結膜炎症状(結膜充血、目やになど)が数日続く。その後、口腔内の粘膜にコプリック斑と呼ばれる白い小さな斑点が現れ、いったん体温が1℃ほど下がる。 [/tl][tl title=’発疹期’] いったん下がった体温が半日ほどですぐに39℃以上の高熱となり、耳の後ろあたりから発疹が現れる。その後、発疹は顔、体、腕などに広がり、1~2日で全身に広がる。高熱は発疹が全身に広がるまで続く。発疹期には、咳や鼻水、結膜充血などの症状がますますひどくなり、肺炎や中耳炎、下痢などを合併することも多い。 [/tl][tl title=’回復期’] 熱が下がり、咳や鼻水、結膜充血などの症状が次第に軽くなる。合併症を併発しなかった場合、7~10日後には回復する。発疹はだんだん薄くなり、色素沈着がしばらく残る。 [/tl][/timeline]
合併症
麻疹の合併症である肺炎と脳炎は、麻疹の二大死因と言われています。肺炎の合併は6%、脳炎の合併は約0.1%に見られます。脳炎は重篤で、後遺症が残ることも多いとされています。
麻疹ウイルスは免疫組織で増殖するため、感染すると一時的に免疫機能が抑制された状態に陥ります。そうなると、ほかの細菌やウイルスにもかかりやすくなり、別の感染症が重症化するおそれもあります。
大人は麻疹(はしか)の免疫がない人が多い!?
2000年代初めまでは、麻疹患者の90%以上が小児で、3歳未満が全体の半数を占めていました。そのため、麻疹は子どもの病気と思われがちですが、今では小児の患者はほとんどいなくなりました。その大きな要因が、子どもに対する予防接種の徹底です。
予防接種には、法律にもとづいて実施される定期接種と個人の判断で受ける任意接種がありますが、麻疹ワクチンは定期接種のワクチンです。2006年3月までは1回のみの接種でしたが、2006年4月から、小学校に入学する前までに麻疹ワクチンを2回接種することとなりました。
麻疹ワクチンは、2回接種することでより確実に、より強固な免疫がつくと言われています。ワクチンの2回接種が導入されたことで、いまの子どもたちは大多数が麻疹ウイルスに対する免疫を持っている状態と考えられます。
また、2007年に10代を中心に麻疹が流行したことを受けて、2008年~2012年度に10代を対象とした補足的な定期接種も実施されました。これまでの予防接種制度では、1990年4月2日以降に生まれた人なら、2回の麻疹ワクチン接種を受ける機会があったことになります。
| 生年月日 | 1972年9月30日以前 | 1972年10月1日~1990年4月1日 | 1990年4月2日~2000年4月1日 | 2000年4月2日以降 |
| 2020年での年齢 | 48歳以上 | 31歳~48歳 | 21歳~30歳 | 20歳以下 |
| 麻疹ワクチンの接種状況 | 1回も接種していない可能性が高い | 定期接種として1回しか接種していない | 定期接種の1回に加え、特例措置で10代の時に2回目の接種機会があった | 定期接種として2回(1歳時、小学校就学前)の接種を受けている |
1990年4月1日以前に生まれた人では、予防接種を1回しか受けていないか、1回も受けていない可能性が高く、麻疹ウイルスに対する十分な免疫を持っていないと考えられます。ただし、過去に麻疹にかかったことがある人では、ワクチンの接種にかかわらず強固な免疫ができています。
麻疹(はしか)の予防接種を受けたほうがいい人
日本では、2008年を最後に、麻疹の大規模な全国流行は起こっていません。2015年には、日本が麻疹の排除国であることがWHOに認められました。
しかし、海外ではいまだ多くの国で麻疹の流行が継続しており、海外から麻疹ウイルスが持ち込まれる事例が毎年発生しています。近年は、海外からの輸入例を発端に、2回の予防接種歴がない20代以上の大人の間で感染が広がる傾向にあります。大規模な流行は起こっていないとはいえ、免疫のない人はいつ麻疹に感染してもおかしくないのです。
すべての人が麻疹ウイルスに対する免疫を持っておくべきですが、次のような人は特に麻疹の予防接種を検討するべきです。
海外への渡航予定がある人
海外に渡航する予定がある人は、少なくとも渡航の2週間前までに2回の麻疹ワクチン接種を受けておくことが推奨されます。空港やホテルなど、海外からの渡航者と接触する機会の多い職場で働く人も、2回のワクチン接種歴があると安心です。
妊娠を計画している人
妊娠中に麻疹にかかると流産や早産を起こすリスクがあることから、妊娠を計画している女性も、妊娠前までに2回のワクチン接種を受けることが推奨されます。妊娠中は風疹にも気を付ける必要があるので、ワクチンは麻疹と風疹の混合ワクチン(MRワクチン)を接種します。
MRワクチンは弱毒化したウイルスを含む生ワクチンなので、妊娠中は接種を受けることができません。また、安全のため、予防接種を受けてから2カ月間は避妊する必要があります。
子どもを持つことを考えている女性は、将来に備えて、早いうちに予防接種を受けたほうがよいでしょう。1990年4月1日以前に生まれた人では予防接種を2回受けていない可能性が高いので、積極的に接種を検討するべきです。
重症化リスクが高い人と接する機会の多い人
乳幼児や体力が低下している人、妊婦など、麻疹にかかると重症化しやすい人と接する機会の多い人は、2回の麻疹ワクチン接種を受けることが強く推奨されます。医療機関や児童福祉施設、学校などに勤務する人は、自分の予防接種歴を必ず確認し、2回の接種歴がはっきり確認できない場合は予防接種を受けるようにしましょう。
妊婦の家族は風疹予防も重要になることから、麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)を接種するようにしましょう。今は、職場の同僚など、家族以外でも妊婦と接する機会は少なくありません。自分には関係ないと思わず、自分と周りの人の健康を守るためにもできるだけ早く予防接種を受けることが大切です。
参考文献
1.中山久仁子(編): おとなのワクチン, 南山堂, 2011.
2.国立感染症研究所: 麻疹とは
3.日本プライマリ・ケア連合学会 ワクチンプロジェクトチーム: 年齢でみる不足している可能性があるワクチン
4.厚生労働省: 麻しんに関する特定感染症予防指針
5.厚生労働省: 麻しんについて
